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デイナイトケアセンター

クレプトマニア(窃盗症)

「逮捕されても万引きを繰り返してしまう」「お金を持っているのに万引きしてしまう」それはもしかしたら窃盗症(以下クレプトマニア)という病気かもしれません。世の中には何度警察に逮捕されても万引きがやめられない人がいます。
実は、この問題は刑罰を与えてもやめられません。近年、依存症治療の発展により再犯を防ぐには刑罰よりも治療が有効であることが分かってきました。しかし一方で、わが国にこの問題に対応できる専門医療機関はほとんどなく、例え専門病院に入院してもその後また再犯にいたるケースが絶えません。そこで大森榎本クリニックでは、平成28年12月から全国に先駆け社会内でクレプトマニアの回復支援をしていくためにデイナイトケアの受け入れを始めました。当院の治療は、「盗むことが出来ない環境で盗まない治療」ではなく「盗むことが出来る環境で盗まない治療」という点に大きな特徴があります。

クレプトマニアとは?

では治療内容に入る前に、クレプトマニアとはどのような病気(依存症)かを見ていきたいと思います。クレプトマニアを日本語に訳すと「窃盗症」といいます。精神医学的には、国際疾病分類(ICD-10)で、「病的窃盗」と記載されています。つまり「窃盗(万引き)を止めたくても、意思の力では止められない」依存症という病気なのです。この「盗み」の形態はほとんどが万引きというかたちをとります。つまり盗むことに耽溺(たんでき)した状態といえます。この盗む行為は、盗みたいという衝動により対象行為時は緊張感を味わい、成功時に開放感・満足感を得るといわれています。実は、盗む物や結果に対してはあまり関心がなく、一般的にはほとんど価値がない物だったというパターンが多いです。盗んだ物は、捨てたり未使用のまま放置する、他人への譲渡の他にまれに現場へ返却される場合もあります。これは、いわゆる「利益のための窃盗」ではなく「窃盗のための窃盗」といわれていて、衝動制御障害に含まれる同様のケースとして「放火のための放火」を繰り返す病的放火(ピロマニア)があります。

クレプトマニアは、アメリカの精神医学会の診断基準であるDSM-5においても、「窃盗症」と記載されている精神疾患です。参考までに、DSM-5におけるクレプトマニアの診断基準は以下の5項目です。

  • A:個人的に用いるのでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
  • B:窃盗におよぶ直前の緊張の高まり。
  • C:窃盗を犯すときの快感、満足、または解放感。
  • D:盗みは怒りまたは報復を表現するためのものでもなく、妄想または幻覚に反応したものでもない。
  • E:盗みは、行為障害、躁病エピソード、または反社会性人格障害ではうまく説明されない。

ただここで示されている診断基準は、1つの目安ではありますが絶対的なものではありません。クレプトマニアにあたるかどうかは、当院医師の診断を受けてください。診察のお問い合わせやご予約は、大森榎本クリニック・クレプトマニア相談担当:斉藤章佳(03-5753-3361)までご連絡ください。

クレプトマニアの治療

治療の三本柱について

1. 通院とデイナイトケア

ひとつめの柱は通院とデイナイトケア(9:00~19:00)です。「盗む」ことにのめり込んでいる時は、生活や睡眠、食事のリズムはバラバラになります。それはまず第一に「盗む」ことが最優先事項になるからです。デイナイトケアを利用することで、病気のチェックと規則正しい生活リズムを身につけていきます。ミーティングや認知行動療法に参加しながら再発のパターンを学び、自己の生きづらさに気づき、より新しい楽な生き方つまり「盗む必要がない生き方」を学んでいきます。そして同じ問題を持った仲間への自己開示により、自分のことを周囲に理解してもらいながら、よりよい人間関係を再構築していきます。

1週間のプログラムの例
午前

教育プログラム

リラプス
プリベンション
セッション

ミーティング

リラプス
プリベンション
セッション

心理教育

フロア運営
ミーティング

午後

芸術行動療法

ボールゲーム

ウォーキング

芸術行動療法

ボールゲーム

ウォーキング

芸術行動療法

ボールゲーム

ウォーキング

ナイト

クレプト
ミーティング

クッキング

映画鑑賞

朗読会

クレプト
ミーティング

カラオケ

※プログラムは治療の段階にあわせて月ごとに変わります。
※デイナイトケアは9:00~19:00までです。それぞれのメインプログラムは、午前(10:30〜12:00)、午後(13:30〜15:00)、ナイト(18:00〜19:00)です。昼と夜は食事が提供されます。

2. 再発防止(リラプスプリベンション)

ふたつめの柱は「再発防止」です。具体的には、病的窃盗行動に至るきっかけ(状態を悪化させる引き金)を本人に検討させ、その結果を踏まえて対象行為を回避するための対処方法を学習するという内容です。例えばコンビニでの万引きを繰り返す対象者の場合、店員の少ない時間帯や場所に行くことが再発につながる引き金になっていることに気付かせ、あえて店員が多い店にはいるや、そもそも引き金になりやすい店を回避するという自分に合った具体的なリスク回避方法をリスクマネジメントプランの中で計画し実行していきます。

《再発防止のためのプログラム》

  • ①自分が強迫的または衝動的に窃盗行動に出るに至るまでのプロセス(引き金→思考→渇望→行動化)を知ること
  • ②自分の認知の歪みに気づくこと
  • ③行動変容
  • ④自分なりの問題解決スキルを獲得すること
  • ⑤リスクマネジメントプランを作成すること

以上の5つから構成されています。リスクマネジメントプランとは、強迫的、衝動的窃盗行動を再発させないための再発防止計画のことです。①から④の認知行動療法中心の心理教育で学んだことを踏まえて、本人の手で、⑤リスクマネジメントプランを作成します。当院では、治療参加者本人にこのリスクマネジメントプランを定期的に更新してもらい、毎月ひとり治療参加者全員の前で発表し、他の治療参加者や当院スタッフからフィードバックをもらうことで次第に精密な内容にしていきます。

3. 自助グループ(K・A)

自助グループとはセルフヘルプグループといい、文字通り「共通の問題を抱えている者同士が支えあい、問題解決を図ろうとするグループ」のことです。クレプトマニアの場合は、K・A (kleptomaniacs Anonymous:クレプトマニアクス・アノニマス ~無名の窃盗症者たちの集い)があります。基本的にはミーティングで会い、別れ、次のミーティングでまた会うという付き合いが自助グループの特徴といえます。自助グループに参加する意義としては、習慣化した盗癖行為で誰にも相談出来ずに人とのつながりを断ってきた人も多く、孤独感を感じながらも問題行動を続けてきたという話をよく聞きます。つまり同じ問題を持った仲間との出会いが新しい人間関係や習慣を作り出してくれるという効果が期待できます。また回復途上にある家族や本人は、自分が回復した姿をイメージ出来ずにいます。しかし、自助グループには5年、10年と問題行動がとまっている、いわゆる「回復のモデル」が多数存在します。その方々に接することで本人も家族もいつの日か必ず回復できるのだと信じることが出来ます。このような理由から、回復はあるが治癒は困難であるといわれているクレプトマニアにとって、医療機関でのプログラム終了後も自助グループには継続して参加する必要があります。

クレプトマニアのチェックリスト

クレプトマニアのチェックリストです。以下のようなことが最近6か月以内にありませんでしたか?
あてはまる項目があったらまずは下記連絡先にご相談ください。

チェック項目 はい
1 万引きや人の物やお金を摂るのが犯罪だとわかっているのに、盗んでしまう。
2 必要ない物なのに盗ってしまう。
3 他人に見られていることがわかっているのに、盗ってしまう。
4 盗むことが割に合わないことがわかっているのに、やってしまう。
5 何度も見つかって注意をされたり、職場で問題になったり、自分の立場が危機状態にある。
6 盗む行為に衝動的に抵抗できない、または気がつくと盗んでいる。
7 物を盗む前にはそのことしか考えられない。
8 物を盗むときには快感、満足感、解放感がある。
9 自分の意思ではこの行為をやめられない。
10 窃盗で逮捕され、何度も刑務所に出入りしている。

※連絡先:大森榎本クリニック・クレプトマニア相談担当:斉藤章佳(03-5753-3361)

クレプトマニアの家族相談

当クリニックは、クレプトマニアの問題を持った本人へのかかわりに悩んでいる家族の相談も積極的に受けています。度重なる問題行動に家族は疲弊し、警察や裁判などの慣れない刑事手続きに振り回され、受診を本人にすすめても拒否される、そんな苦しい体験を家族は何度となく経験します。家族自身が「クレプトマニア」という病気に巻き込まれ、精神的に追い込まれて心身の調子を崩してしまいます。
この病気にはこうすれば正解といったマニュアルのような対応方法はありませんが、現在本人に関わっていて「困っている」というSOSを出してくれた方が、当院にとってはクライエントになります。これは家族に限らず、この問題に関わっている援助者も同じです。まずは、この問題に精通している専門スタッフに相談していただき一緒に解決策を考えていけたらと思います。
ぜひこちらにご相談ください。家族支援グループのご案内もさせていただきます。
※連絡先:大森榎本クリニック・クレプトマニア家族相談担当:斉藤章佳(03-5753-3361)

クレプトマニアの相談・回復事例

事例①:都内在住の男性(43)は都内の私立大学出身で、妻と子どもが一人います。現在は介護施設で介護士として働いています。彼が初めて万引をしたのは10代の頃でした。当時、大学受験のストレスからコンビニで菓子パンなどを盗み始めました。別に、どうしても欲しいものというわけでもなく、財布には購入できるだけの十分なお金も持っていました。しかし、逮捕されるリスクの中で行う万引きのスリルがやみつきになり、いつしかわざわざお金を使って買い物をすることがばからしく思うようになりました。
大学に入学し、ストレスからは開放されたのですが万引は続いていました。行為も10台の頃よりはエスカレートし、大学生のころは日用雑貨なども盗品でまかなうようになっていました。その頃には、盗むこと自体が目的化していたように思います。店外に出ると途端に万引した物への興味・関心が失せ、ごみ箱に捨てることもありました。彼は「万引を成功したときに感じるたまらない高揚感や達成感は抑えられなかった」と告白しています。
大学を卒業し、23歳で介護士として働き始めてからも万引はやめられませんでした。しかし、4年後の27歳のとき、スーパーで食料品を持ち去ろうとしたとき警備員に指摘され、初めて警察に逮捕されました。面会に来てくれた妻は泣いていましたが、彼は「逮捕勾留されていれば万引をしなくていいんだ」とむしろ安心していました。同時に、このままではいずれ人生が破滅するという強い危機感もありました。保釈後、クレプトマニアの患者らが集団で話し合い、罪と向き合う専門治療をクリニックで受けることが出来るという情報を知り通院するようになりました。専門のスタッフや長く万引きをやめている先行く仲間からアドバイスを受け「自分も治るのでは」と思うようになり希望を持ちました。その甲斐あって症状は改善し、今では万引をすることはなくなっています。しかし、彼はクレプトマニアのため、仕事や周囲の人々からの信頼など大切なものをいくつも失ったといいます。もっと早く治療機関につながっていればよかったのにと今は感じています。

事例②:都内在住の女性(50)は、夫と子どもが3人いる普通の主婦です。
最初の万引きは学生時代に同級生が万引きを何度もやっているのを見て「あんな簡単に盗めるんだ」と思い私もやってみました。案の定、簡単に万引きができ特に見つかることはありませんでした。その後は、特に万引きとは無縁の生活でしたが、ある日夫婦間の不和やママ友との人間関係がうまくいかないことでストレスが重なった時に、ふと無意識にお菓子を盗んでしまいました。この時、学生時代の記憶がフラッシュバックしスイッチが入ったような感覚に襲われました。当然悪いことだと分かっているのに、盗む時のスリルとリスク、無事盗んで店を出た時の達成感は気分を変えるには格好の方法でした。それからというもの、その快感が忘れられず「いけない」と思う反面チャンスがあると「やってみようかな」という衝動を抑えられなくなりました。もちろん、物を買うだけのお金は持っていいますが、特別必要に迫られている物ではなくてもついつい手がのびてやってしまいます。
そしてついには常習犯となり何度も警察に捕まりました。このままだと、家族のためにもやめなければ家族崩壊すると思います。夫は離婚せずにいてくれていますが、元々夫婦関係は悪いためこんな私とははやく別れたいと思っているはずです。そう思うと、自己嫌悪で落ち込み死にたくなり、また万引きへと欲求が高まってしまいます。
そんな日々が続いたある日、万引きを繰り返すのは「クレプトマニア」という病気であるとインターネットで知りました。夫からも「専門病院で治療しないと離婚する」と言われたこともあり、やっとの思いで受診ました。それまで、「万引きするのは性格のせいや意思が弱いからだ」と思っていましたし、まわりからもそう言われていたので、病気だと言われて正直驚きました。と同時にホッとしたところもありました。なぜなら、病気なら治せるかもしれないと思ったからです。私と同じように苦しんでいる人がいたら、早く適切な治療機関につながってほしいと思います。