平成20年に東京都で実施された調査によれば、都内で高次脳機能障害と診断された数だけでも50万人に上るとされています。障害を負った方々は様々な原因で入院をした後、訓練やリハビリを経て、社会生活へ戻ります。実際に自宅へ戻ってから困難なことや問題点が判明することも多く、本人だけでなく、家族を含めた包括的な支援が必要になる場合もあります。そういった対応や受け入れが可能である施設は未だに少なく、当クリニックではこのような社会のニーズに応え、平成22年4月から高次脳機能障害の方をはじめとした、様々な疾患の方をデイナイトケアで支援する目的でリハビリテーションフロアを開設しました。

以下で私たちの取り組みについて説明致します。

高次脳機能障害って?

脳損傷に起因する認知障害全般を指すこの障害においては、失語・失行・失認のほか様々な認知・身体の障害によって日常生活や社会生活に制約が生じます。特に認知や行動の障害は外見からは分かりにくいため周りから理解をされにくく、「見えない障害」と呼ばれることもあります。また、家族を含め本人の障害への認識や受け止め方が不十分なことが多く、本人(家族)の思いと現実との間にギャップが多い障害とも言われています。

どんな人が利用しているの?

  • 日中一人にしておくと心配な方(記憶や理解力の問題など)
  • 日中の服薬管理が必要な方
  • 高齢者施設だと合わないと感じる方
  • 家に一人でいると気が滅入ってしまう方
  • 自分ではなかなか運動をしようと思えない方
  • 仲間や居場所が欲しい方

どんなことを行なっているの?

個別性が高く、様々な障害を持っている方々を支援していくためには、あらゆる方向からアプローチを行なう必要があります。一週間のプログラム表の一例を次に紹介します。

1週間のプログラムの例

午前 指先トレーニング 連想ゲーム リハビリテーション 絵画療法 手作業 運営ミーティング
午後 グループゲーム すこやか体操 室内レクリエーション 運動プログラム スタッフプログラム 書道
ナイト 脳内トレーニング 音読プログラム カラオケ大会 ナース講座 音楽療法 映画鑑賞

※プログラムは月ごとに変わります。
※デイナイトケアは9:00~19:00までです。昼と夜はお食事を提供しております。

デイナイトケアスタッフより

私たちが担当する「高次脳機能障害デイナイトケア」では、様々な障害を持った方が一緒にグループワークを行なっています。様々な“生きづらさ”を感じている方々が社会に適応していくには、「同じ障害を持った方」を「スタッフが支援していく」という従来の方法だけでなく、「同じような立場の人によるサポート(ピアサポート)」を取り入れることが必要不可欠だと感じています。デイナイトケアという『リトルコミュニティー(小さな共同体・小さな社会)』の中で、時にはぶつかり合いながらも、人と関わることで社会性は高まります。その経験をそのまま持ち帰って地域で実践してもらうことが、結果として地域で障害者が孤立するのを予防していくことに繋がると信じています。

関係機関の皆様へ

現在も、高次脳機能障害の方々への受け入れ態勢は十分とは言えません。通院・通所といった施設もそうですが、居住可能な施設は特に入所が困難であることが多いように感じます。おそらく、個別性が非常に高い障害であるため、受け入れる側の不安要素が大きいことや、障害への理解が未だに低いことなどが原因になっているのでしょう。また、家族や親戚がいない方が高次脳機能障害を負い、退院する段階になって独居生活はできないがどうしたらいいか分からない、という相談を関係機関から数多く受けてきました。現段階ではそういった相談に対して明確な道筋を提示できないことが多く、歯痒さを感じると同時に、年々このような困難ケースが増え続けていることに危機感を感じています。

私たちが高次脳機能障害を負った方々を支援していくことにおいて特に皆様に助けられ、また重要だと感じるのは情報と連携です。家庭⇒地域⇒社会、という大きな視点を持って関係者が互いに情報を共有し、支援体制がいわゆる「箱」や「専門」という括りで途切れてしまわないように繋いでいくことが、この障害に対する支援においては非常に重要なことであると考えます。